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循環器疾患

高血圧

概要

高血圧は多くは無症状ですが、脳卒中や心筋梗塞といった心血管病の最大の危険因子です。従って、高血圧の治療の目的は、高血圧によってもたらされる心血管病の発症、進展、再発を抑制し、死亡を減少させることです。

図1. 血圧と循環器疾患死亡の相対リスク

血圧と疾患リスク

​ 図1はNIPPON DATA80という疫学調査において、血圧と循環器疾患の死亡の相対リスクを調べたものですが、血圧が上昇するに従って相対リスクも上昇していることが分かります。最上段は全年齢の結果ですが、収縮期血圧が120 mmHg以下の人達に比べると、140-159 mmHgでは3倍に、180 mmHg以上では5倍以上に循環器疾患の死亡リスクは上昇しています。中段は年齢が30-64歳、下段は75歳以上の結果ですが、どの年齢でも血圧の上昇に従って、循環器疾患死亡のリスクは高まっていますが、年齢が若い人ほど、血圧上昇による相対リスクの上昇が著しいのが分かります。

このような結果も加味されて、高血圧治療のガイドラインでは、高圧目標が、若年者、中年者は、診察時血圧130/85 mmHg未満、高齢者は140/90 mmHg未満と年齢によって異なる降圧目標が設定されています。​

​高血圧の原因

​ 高血圧の原因ですが、まず、一般的に高血圧といっているのは、”本態性高血圧”といって原因を特定できないものをさしています。特定の原因による高血圧を”2次性高血圧”といい、腎実質性高血圧、腎血管性高血圧、原発性アルドステロン症、睡眠時無呼吸症候群などがあげられます。

原因の特定できない”本態性高血圧”の原因を述べるのも変な話ですが、​単一の要素ではなく、遺伝的要因、環境要因などが関与していると考えられます(図2)。遺伝的要因は、両親や兄弟などに高血圧の人がいることをさしますが、こういった家族歴があると、ない人に比べて、3.5倍の高血圧発症のリスクが

高いことが知られています。血圧に関する遺伝子多型も数多く報告されています。高血圧に対する遺伝的要因の寄与度は30-70%程度とされています。

​環境要因としては、塩分過剰摂取、肥満、運動不足、飲酒、喫煙、ストレス、睡眠障害などが知られています。高血圧の治療をしていく上で、是正可能な環境因子を見極めて改善していくことが重要と思われます。

図2. 高血圧の原因

​検診などで高血圧を指摘されて、はじめて外来を受診された患者さんの場合、高血圧と指摘されたのが今回はじめてなのか、家庭血圧を測定しているのか、

指摘された高血圧がどの程度なのか、高血圧の家族歴があるか、高血圧以外に治療中の病気や過去にかかった病気があるか、運動や食事、喫煙、飲酒などの生活習慣などをお伺いしてから治療方針を決めていくことになります。

この過程で、合併症の確認のために、血液検査、尿検査、心電図、胸部X線検査などをお勧めすることもあります。また、上述しました、2次性高血圧の除外が必要と判断された場合には、ホルモンの血液検査や腹部エコーなどの検査を行うこともあります。

​糖尿病、慢性腎臓病、心血管病、メタボリック症候群などを合併している場合には、より早期から薬物治療を開始したほうがよいと判断されます。

図3. 初診時の高血圧の管理計画

図4. 診察時血圧に基づいた心血管病リスクの層別化

​不整脈

心臓は昼も夜も絶え間なく一定のリズムで収縮していますが、このリズムは正常は心臓の入口にある洞結節という場所で作られた電気が心臓に伝わり、心臓が収縮することで起こります。しかし、洞結節で作られた電気は心臓の筋肉全体に直接伝わるのではなく、刺激伝導系という電気を通す道を介して心臓の筋肉に伝えられます(図1)。洞結節で電気が発生しなかったり、別の場所で刺激が起こったり、伝導に異常が起こると、心臓は規則正しい収縮ができなくなります。これが不整脈です。

​不整脈は大きく、徐脈性と頻脈性の2つに分類されます。

徐脈性不整脈

脈が遅くなることを徐脈といいます。徐脈を引き起こす不整脈の代表は、洞不全症候群房室ブロックです。洞不全症候群は上述した洞結節の働きが悪くなり、通常より遅い速度でしか電気を起こせなくなったり、ひどくなると、電気を起こせなくなる病気です。房室ブロックは刺激伝導系の途中にある、もう1つの関所である房室結節かそれ以降の刺激伝導系が障害させることで、洞結節からの電気が心室に伝わらなくなり起こる病気です。高度の徐脈になると心不全や失神などが起こります。虚血性心疾患や薬剤性などの2次性でない場合で、症状により生活に支障がでている場合には永久ペースメーカ植え込みの適応となります。

頻脈性不整脈

正常な働きをしている心臓でも、運動や興奮などにより交感神経を介して心拍数が増加し、頻脈になることはありますが、正常と異なる場所から起きた刺激が刺激伝導系とは異なる回路を形成して電気刺激を起こし、心臓が頻回に収縮を起こす不整脈です(図2)。頻脈性不整脈の代表的なものとしては期外収縮、心房細動、上室性頻拍、心室頻拍、心室細動などがあります(図2)。心臓には前室にあたる心房と、心臓の収縮の8-9割を担う心室がありますが、心室性の頻脈性不整脈である、心室頻拍心室細動は命に直結する不整脈です。このような不整脈は早急に原因の精査と治療が必要になります。

非心室性(上室性)不整脈の代表は心房細動​(図2)と発作性上室性頻拍です。心房細動は年齢とともに増加する不整脈で、動悸や胸部不快感といった自覚症状だけでなく、脳梗塞や心不全の原因となるため、症状が軽かったり、なくても治療が必要かを見極める必要がある不整脈です。発作性上室性頻拍は、命に直結することは少ない疾患ですが、発作時の心拍数が極端に早い例は、失神などの原因にもなり、発作の頻度や症状により、カテーテルアブレーションによる根治術が勧められます。

図1. 刺激伝導系

図2. 頻脈性不整脈

​冠動脈疾患・虚血性心疾患

冠動脈とは、心臓を栄養する血管(動脈)のことです。冠動脈疾患は主に冠動脈に動脈硬化などにより、狭窄や閉塞が起こることにより生じます。冠動脈は心臓を冠のように覆う動脈で、主に右冠動脈、左冠動脈前下行枝、左冠動脈回旋枝の3本から成ります。

労作性狭心症

心臓を栄養している血管を冠動脈といい、冠動脈が動脈硬化によって狭くなることで起こる狭心症です。階段の上り下りや、通常よりも激しい運動をしたときなどに起こります。より重症な不安定狭心症や急性心筋梗塞との鑑別や進行の阻止も重要です。

冠攣縮性狭心症

労作性狭心症が運動などの動作をした時に起こるのに対し、冠攣縮性狭心症は、就寝中などの安静時にも起こるため、安静狭心症と呼ばれることもあります。「冠攣縮」とは、冠動脈のけいれんのことで、瞬間的に起こるため、病院で心電図検査を行ってもほとんど見つかりません。しかし、狭心症の6割に冠攣縮が関与しているといわれ、突然死も起こす恐ろしい病気であり、さらに日本人の冠攣縮性狭冠攣縮性狭心症心症は欧米人に比べて約3倍多いといわれていることからも、早期発見、早期治療が大切です。喫煙は大きな危険因子であることが分かっていますので、まずは禁煙を心がけてください。そのほか、不眠、過労、ストレス、アルコールの飲みすぎなども発作の誘因となります。

微小血管狭心症

微小血管狭心症は、弁膜症や心筋症などの心臓の病気がない方で、直径が100μm以下の微小な冠動脈の収縮亢進のために心筋虚血が一時的に起こることによって胸痛が起こります。その70%は女性が占めるといわれています。
発症する年齢は30代半ばから60代半ばで、最も多いのは40代後半から50代前半の女性です。この時期はエストロゲンが減少し始める更年期障害の時期とも重なっています。冠攣縮狭心症と同じように喫煙、寒冷、精神的ストレスなどが誘因となることも知られています。はっきりとした原因解明には至っていませんが、女性ホルモンが関与していると考えられています。

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